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日本全国に鎮座する「一の宮」はどんな神社?その歴史と創立の理由を探る

「一の宮」は、各旧国のナンバーワン神社

画像:日本最古級の神社・大和国一の宮 大神神社(提供:大神神社)

奈良時代から明治時代まで日本は「令制国」 という呼び名の律令制に基づいた68の国が設置され、それが地方行政区分として用いられていた。今ではこうした国のことを「旧国」と称している。

令制国の行政機関を「国衙」あるいは「国庁」といい、それらが存在する都市域を「国府」といった。国衙は、律令の規定に基づいて、「守・介・掾・目」の国司四等官と書記官が勤務した。

10世紀に入ると朝廷は、統治権限を大幅に国司へ移譲した。今でいえば、地方分権のはしりであり、一国の国司、特に守は国を統治する上で大きな権力を有していた。

国司は、基本的に中央から派遣された役人であり、その主な職務は徴税や軍事に関わるものであったが、重要な職務の一つとして「国司神拝」があった。これは、任地に着任した際に、国内の有力な神社を巡拝するというものである。

この慣習は、奈良時代から行われていたともいうが、平安時代になると欠かせないものになったという。

高級貴族の中には、守であっても、国に赴かず都に留まる者もいたが、初任時には任地へ赴いて「国司神拝」を行った。要するに初任時の国司にとって、この慣習は重要なセレモニーであったのだ。

こうした国司には、国内全ての神社に月の初めに巡拝する任務があった。
しかし、広い国内に分散する神社全てを参拝するのは大変であるので、国内の各神社の祭神を合祀した神社、すなわち「総社」を国府の近くに造営する国司も現れた。

また、総社とは別に、国司が神拝するその国を代表する神社として、「諸国一の宮制」を定めた。

これは、国内の神社を巡拝する際の順序が重要視されるようになったためで、巡拝する順序に従い「一の宮・二の宮・三の宮」と呼ばれ、一種の社格となっていったのだ。

簡単にいえば一の宮とは、それぞれの国における「ナンバーワン神社」を意味するのである。

様々なジャンルの祭神を祀る「一の宮」

画像:大国主命を祀る出雲大社(提供:出雲大社)

「一宮」に祀られている祭神達は、実にバラエティに富んでいる。

大国主神・須佐之男命・日本武尊など、日本神話に登場する有名な神様もいれば、神社の宮司家の祖先や朝鮮の皇子も祀られる。

こうした統一性のなさは、一宮を決めた主体が朝廷ではなく、地方組織の国であったことが要因である。だからこそ、それぞれのお国柄の特色が反映されているとも言えるだろう。

しかし、一の宮のほとんどは『延喜式神名帳』に記載される古い歴史をもつ神社である。

『延喜式』とは、延喜5年(905)に、醍醐天皇の命により藤原時平が編集に着手して、 延長3年(925)に完成した法令集で、式とは律令を適用する際の施行細則をいい、朝廷が定めた作法、事務手続きなどの規定を網羅したものである。

したがって『延喜式』に名を連ねる一の宮は、長い歴史に培われ、地元の人々の篤い崇敬の対象となった社格の高い神社と言えるのだ。

なぜ1つの国に2社以上の「一の宮」があるのか?

画像:摂津国一の宮の1社・坐摩神社(撮影:高野晃彰)

ただ「一の宮」といいながら、一つの旧国に2社以上の一の宮が存在する場合がある。

その理由は、平安時代の終焉とともに貴族の時代が終わり、律令体制もほぼ崩壊すると、貴族に代わりその国ないし土地の実権を握った武家をパトロンとした神社が、新たに「一の宮」を名乗ったことによる。

そのパトロンとは、国司に代わりその国・地域の政務の中心となった在庁官人・地方領主などだ。

鎌倉時代以降、世の中が不安定さを増して戦乱が多くなると、彼らの精神的な支柱として一の宮が機能し、彼らの氏神・守護神としてさらなる発展を遂げた神社も現れたのである。

「一の宮巡拝会」に認定されている一の宮とは

「一の宮巡拝会」とは、日本各地にある一の宮を巡礼し、参拝を行うための会である。全国の一の宮を訪れて、信仰や歴史、文化を学びながら神社巡りを楽しむことを目的としている。

現在、「一の宮巡拝会」のリストに掲載されている一の宮・新一の宮を、地域毎と旧国名で挙げてみると以下のようになる。

「北海道・東北」地方
蝦夷国一宮 北海道神宮
津軽国一宮 岩木山神社
陸中国一宮 駒形神社
出羽国一宮 鳥海山大物忌神社
陸奥国一宮 志波彦神社・塩竃神社/都々古和氣神社/都々古別神社/石都々古和気神社
岩代国一宮 伊佐須美神社

の9社。

画像:駒形神社(提供:駒形神社)

「関東」地方
常陸国一宮 鹿島神宮
下総国一宮 香取神宮
上総国一宮 玉前神社
安房国一宮 安房神社/洲崎神社
武蔵国一宮 氷川神社/氷川女體神社
相模国一宮 寒川神社
甲斐国一宮 浅間神社
知知夫国一宮 秩父神社
上野国一宮 一之宮貫前神社
下野国一宮 宇都宮二荒山神社/日光二荒山神社

の13社。

画像:鹿島神宮(提供:鹿島神宮)

「東海」地方
伊賀国一宮 敢国神社
伊勢国一宮 椿大神社/都波岐神社・奈加等神社
志摩国一宮 伊射波神社/伊雑宮
尾張国一宮 大神神社/真清田神社
三河国一宮 砥鹿神社
美濃国一宮 南宮大社
飛騨国一宮 水無神社
伊豆国一宮 三嶋大社
駿河国一宮 富士山本宮浅間大社
遠江国一宮 小國神社/事任八幡宮
信濃国一宮 諏訪大社上社/諏訪大社下社

の16社。

画像:三嶋大社(提供:三嶋大社)

「北陸」地方
若狭国一宮 若狭彦神社
越前国一宮 氣比神宮
加賀国一宮 白山比咩神社
能登国一宮 氣多大社
越中国一宮 高瀬神社/氣多神社/雄山神社/射水神社
越後国一宮 弥彦神社/居多神社
佐渡国一宮 度津神社

の11社。

画像:彌彦神社(提供:彌彦神社)

「近畿」地方
山城国一宮 賀茂別雷神社(上賀茂神社)/賀茂御祖神社(下鴨神社)
丹波国一宮 出雲大神宮
丹後国一宮 元伊勢籠神社
近江国一宮 建部大社
大和国一宮 大神神社
河内国一宮 枚岡神社
和泉国一宮 大鳥神社
摂津国一宮 住吉大社/坐摩神社
紀伊国一宮 日前神宮・国懸神宮/伊太祁曽神社/丹生都比売神社
但馬国一宮 出石神社/粟鹿神社
播磨国一宮 伊和神社

の16社。

画像:元伊勢籠神社(提供:元伊勢籠神社)

「中国」地方
美作国一宮 中山神社
備前国一宮 吉備津彦神社/石上布都魂神社
備中国一宮 吉備津神社
備後国一宮 吉備津神社/素盞鳴神社
安芸国一宮 厳島神社
長門国一宮 住吉神社
因幡国一宮 宇倍神社
伯耆国一宮 倭文神社
出雲国一宮 出雲大社/熊野大社
石見国一宮 物部神社
隠岐国一宮(島後)水若酢神社/(島前)由良比女神社

の15社。

画像:吉備津神社(提供:吉備津神社)

「四国・淡路」地方
淡路国一宮 伊弉諾神宮
阿波国一宮 大麻比古神社
讃岐国一宮 田村神社
伊予国一宮 大山祇神社
土佐国一宮 土佐神社

の5社。

画像:伊弉諾神宮(提供:伊弉諾神宮)

「九州」地方
筑前国一宮 住吉神社/筥崎宮
筑後国一宮 高良大社
壱岐国一宮 天手長男神社
対馬国一宮 海神神社
豊前国一宮 宇佐神宮
豊後国一宮 西寒多神社/柞原八幡宮
肥前国一宮 與止日女神社
肥前国一宮 千栗八幡宮
肥後国一宮 阿蘇神社
日向国一宮 都農神社
大隅国一宮 鹿児島神宮
薩摩国一宮 枚聞神社/新田神社
琉球国一宮 波上宮

の16社となる。

画像:新田神社(提供:新田神社)

一の宮巡拝会のリストには、相模の国の一の宮として、鶴岡八幡宮がリストアップされているが、同社からは直々に、「相模一の宮ではない」との返答を貰っているので、ここでは外してある。

また、厳密にいえば旧国名に「蝦夷国・琉球国」はなく、これは新一の宮への編入のための区分である。
そして「知知夫国」は、神代での呼称とされ、後に「武蔵国」に編入されるが、秩父神社が知知夫国の総鎮守として、知知夫国を名乗っているので、この国名を採用している。

いずれにせよ、一の宮は、その地域で歴史を紡いで由緒ある神社なので、折に触れて参拝することをおすすめする。

その御神徳にあやかるのはもちろん、その地方の歴史を知る上でも貴重な経験となるに違いない。

※参考 :
招福探求巡拝の会著 『日本全国 一の宮 巡拝パーフェクトガイド』メイツユニバーサルコンテンツ刊 2024.7
一の宮巡拝会
文 / 高野晃彰

 

高野晃彰

高野晃彰

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編集プロダクション「ベストフィールズ」とデザインワークス「デザインスタジオタカノ」の代表。歴史・文化・旅行・鉄道・グルメ・ペットからスポーツ・ファッション・経済まで幅広い分野での執筆・撮影などを行う。また関西の歴史を深堀する「京都歴史文化研究会」「大阪歴史文化研究会」を主宰する。

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